ビジネスカジュアルとは一体何か? - 米国赴任準備に潜む恐るべき伏兵
アメリカはミシガンへ赴任する少し前、現地の営業&人事マネージャーと電話会議による面接をしたことを思い出す。
そこでは仕事に関する内容はもとより、カジュアルな内容もやり取りされたわけであるが、その中で『服装に関する規定』について話が及んだのをよく覚えている。
筆者が
「米国の服装規定はどうなっているのか?」
と尋ねると、
「こっちには制服みたいなものはないから、Business Casualでよろしく。それと、客先用にスーツは必要だから何着か持ってきたほうがいいね。」
「あと金曜日はJeans Dayといって、ジーンズで出勤してOKだ。まあ変えるのが面倒だったら、いつも通りBusiness Casualでもいいけどね。」
との回答を得たわけである。
つまるところ、筆者は渡米にあたり
Business Casualな格好
を最低限用意する必要が出てきたわけである。
では、Business Casualとは一体どんなものか。
『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』という語句は今時未就学児でも諳んじるほどだそうだし、であればまずは敵情視察としゃれこむべきだ、と筆者は愚考するに至った。
まずはいつも通りDr. Googleに
『ビジネスカジュアル』
と検索してみると、このような有用な画像が見つかった。
多少幅はあるが、基本的にはジャケパンスタイルを指すもののようだ。
ところで筆者が赴く地はアメリカであるが、アメリカと一口に言っても地域性が色々とあるらしい。
なんでも『東海岸から西海岸へ行くにつれてスーツを着る人が減る』という噂もあるとかいう話である。
筆者が赴任するのはミシガン、即ちどちらかというと東海岸に近い方である。
ならば『ややコンサバ気味なビジネスカジュアル』が好ましいという事だろうか。
これを踏まえ、赴任に揃えていくつかの対策アイテムを持っていくことに決めたわけである。
赴任前の対策
まずはシャツだが、無難にセミスプレッドからセミワイドくらいのカラーの、ソリッドあるいは柄の主張の強くないものを選択。
アイロンを丹念にかけるのも面倒なので、適当にイージーケアのものをまとめて購入した。
パンツに関しては、ひとまず無難にグレーとベージュ、それにネイビーを選択。
これに加えてスーツのパンツもあるからして、最悪現地で困ったとしても、ある程度の誤魔化しは効くだろうと踏んだわけである。
ベルトはスーツ用にセリエを1本だけ持参し、残りは現地調達とした。
次にジャケットだが、ひとまずネイビーとブラウンを持参。
最悪スーツのジャケットでお茶を濁してもいいし、これも現地調達が可能だ。
加えて客先訪問用のスーツが必要である。
赴任時期に合わせ、新たにチャコールグレーで仕立ててもらうことにし、既に持っているネイビーと合わせて都合2着を持っていくことに決めた。
ネクタイも柄がそれほど強くないものを3本。
ネクタイピンは元々使っている衣飾屋のもの。レンチが特にお気に入りである。
靴は多少迷ったものの、最終的に「米国だし多少は遊んでも許されるだろう」と根拠不明の持論が鎌首をもたげ、最も数の多い茶系をメインに持参。
以前の記事でも言及したが、筆者は私服でも基本革靴オンリー(運動する時はもちろん運動用のシューズを履くが)のため色々混ざっているが、何とかなるだろうと憶測。折角なので米国発祥とされるタッセルローファーも持っていくことにした。
セーターはややきわどいが、ネクタイさえ締めていれば一応ビジネスカジュアルの範疇に収まるらしい。
よって、柄を控えたソリッドなものをいくつか持参。
時計に関しては、とりあえず左の2つなら大丈夫だろう。右端は週末に着用すれば良い。
鞄はこの記事で垂れ流している通り、ずぼらの救世主たるこれで解決である。
これらを組み合わせ、下記のようなスタイルでの通勤を想定。
少なくとも週5日着回せれば、当面のところはなんとかなる。
とはいえこのスタイルをもってしても、
「なんだそれは?どこがBusiness Casualだ!出直してこい!」
と言われてしまう可能性もないではない。
だがその場合は、当座スーツ通勤でやり過ごさせてもらおうという魂胆である。
完璧とは言えないまでも、渡米前対策としては上々ではなかろうか。
そんな感慨を胸に抱きながら、この筆者はデルタ航空の直行便に飛び乗ったわけである。
赴任後の状況
デルタ航空の直行便から米国の地に降り立ち、現地に初出社した筆者。
その筆者が月曜日の朝に目の当たりにしたのは、
ピンクの柄シャツを着用するマネージャーであり、
ビビッドなカモフラ柄セーターと白スニーカーを合わせた男性スタッフであり、
ライダースジャケットにヒョウ柄のインナー着こなす女性スタッフであった。
原因と反省
筆者はどこで道を違えていたのか。
まず最初のしくじりポイントは、『ビジネスカジュアル』と検索してしまったことである。
というのも、現地のマネージャーは『ビジネスカジュアル』とは一言も言葉を発していないのだ。
彼は、『Business Casual』と言ったのである。
ということで今一度『Business Casual』と検索してみると、このような有用な画像を発見した。
この時点でジャケパンではなく、ネクタイも必須ではなく、ついでに柄物のニットもOKという事がわかる。
また更に調べていくと、そもそも個々の定義にもかなり幅がある事がわかる。
いずれにせよ、『ビジネスカジュアル』と検索した時よりも、よりカジュアルよりな印象を受ける。
次のしくじりポイントは、『そこは日本ではない』という認識が足りなかったことだ。
そもそもが曖昧な定義である『Business Casual』であるわけだが、
その概念を日本で適用した場合と米国で適用した場合とで、
導き出される結果が大きく変わってくる。
つまり、
客先訪問時にはスーツを着てネクタイをきちんと締めるのが当たり前の日本と、
客先訪問時でもネクタイどころかジャケットすら着ないのが普通なアメリカでは、
『曖昧が許す範囲』すら変わってくるということである。
スーツに関して言うにしても、顧客によっては『スーツを嫌う』ところもあるので、着ること自体滅多にない。仮に着る場合でも、ネクタイはまず締めない。これは日本においてはあまりないと言えるだろう。
こうして、
現地の状況に全く合わない服装をしこたま携えた筆者
がここミシガンに推参するに至ったわけである。
正しい『傾向と対策』の立て方
では本来、こういった自体を避けるために何を為すべきであったのか。
まず取れる対策として、マネージャーが『Business Casual』だと言った時、
具体的には?
例えば今日はどんな格好してる?
色は?
形は?
といったことを訊ねておくべきだったのだろう。
ときには物事の仔細に立ち入ることによって、悲しい勘違いを避けることができる。
あるいは
「アメリカ的な服装に溶け込みたいから、参考にスタッフの格好か何か見せてもらえないか?」
とでも聞けば良かったかもしれない。
写真というやつは結構雄弁で、一瞥しただけで何となく感覚というのが掴めたりする。
最近聞いた例としては、スケール付きの空撮写真で人数を把握するという方法があるらしい。例えばデモ等の参加人数に関して、主催者側と警察側の発表値が著しくかけ離れている事が往々にしてあるそうだが、そういう時に使えばどちらが嘘をついているかが凡そわかるという方法があるらしい。
初めて聞いた時はなるほどと思ったものだが、そういう意味で一枚でも写真を見せてもらったならば、現地の感覚が分かったかもしれない。
ちなみに金曜日=Jeans Dayについて、筆者は単純にジーンズを穿いてきてOKな日という認識でいたが、これもどうも違ったらしく、実際には
『何でもOKな日』ということらしい。
いかなジーンズデイとはいえ、事務所のマネージャーが
明らかに特定の野球チームを意味するウェア(しっかり野球帽も着用)
で出勤してきたときは流石に仰天したものだが、
「どうしたんだ?落ち着けよ!今日は金曜日だろ?」
と当の本人に冷静に言われてしまったのだから、もはや何も言うことはない。
結局のところ、『Business Casual』を事前に正しく捉えるには
・定義が極めて曖昧なことを知っておく
・現地の状況を具体的に確認しておく
この2つを押さえておく必要があるかもしれない。
ちなみに、『私服』のつもりで持ってきたこの辺のアイテムたちだが、今では『Business Casual』として平日に大活躍している。
Raretsu