モノ魔リスト

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必要ではない。だがよく考えてみると、たしかに必要ではないようだが愛すべきモノたち。

あのサザビーズで腕時計を落札した話 前編

サザビーズといえば、クリスティーズと並んで著名なオークションハウスとして有名である。落札額が高額になったりすると、日本でもたまにニュースになったりもする。

そういうニュースを聞くと、荘厳な会場の中で何億円とするアートを囲み、リアルタイムで札束のインファイトを繰り広げる富裕層…という安直なイメージと共に、自分には縁遠い世界だと思っていた。やれバンクシーがどうとか、バスキアがこうとか、そういう次元のイメージである。

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出典:Sotheby's

 

…思っていたが、よくよく見てみれば腕時計もそれなりに出品されている。

そしてそれらの多くは数十万円~数百万円程度で、尚且つインターネットでの参加が可能だったりする。

実際、筆者が今回見つけたのはそういう品であった。 

サザビーズで入札するまで

筆者はややマニアックな、特定の年代に製作された時計を好む傾向にある。その手の時計は個体数も少ないため、日ごろから世界中の時計在庫をチェックする習性がある。

大体は2年か3年くらい巡回していればひょっこり出てきたりするのだが、今回探していたものは探し始めて5年ほど経っており、サザビーズで見つけると同時に参戦を決意した。

入札にあたっては、まずは会員登録が必要になる。サザビーズの会員登録、というとやや剣呑なイメージも無くはないが、別に審査などはない。登録用のメールアドレスと住所、クレジットカード情報があれば問題なく、登録が終わればすぐ入札が可能になる。

初回の入札時は、身分証の提示なども必要ないようだ。 

出品情報の誤りを指摘する試み

いきなり余談だが、同じ時計を4年も5年も探し続けていれば、そのモデルについて詳しくなることは想像に難くない。筆者もその典型であり、ついては初めてHPで情報を確認した際、記載された内容に一部誤りを発見してしまった。

サザビーズほどの老舗が間違えるものか?と少し訝しむ気持ちはあったが、一応Client Careにコンタクトを取り、その真偽を確認してみた。

数日待った結果として、記載の誤りが修正された。具体的には"Saleroom Notice"なる形で訂正・追記がなされていた。数日かかったのは、製造元の時計ブランドに問い合わせていたかららしい。ついでとばかりに、筆者が質問した以外の情報についても一部加筆されていた。

誤り自体は、筆者のような素人が気付くくらいであるから、割と初歩的なものであった気もした。が、サザビーズが手掛ける商品は多岐にわたるため、よほどの高額品でない限りは存外に緩めの掲載基準なのかもしれない。

とはいえ、まだ会員登録したばかりで入札もしていないような筆者の質問についても、情報を訂正する点は割と好感が持てるところだ。

流石は著名なオークションハウスの面目躍如といったところか。

かなり強気な手数料

サザビーズを一度でも利用した事がある諸兄姉は、その高額な手数料に覚えがあるだろう。日本で有名なヤフオクでは、出品者が落札額の10%程度の手数料を払うことで知られているが、サザビーズにおいては落札者も"Buyer's Premium"なる手数料を払う必要があるのだ。

 

そして、このバイヤーズプレミアムが強気である。

2021年6月現在、NYでは落札額の13.9%~25%となっているが、下記のチャートで確認できる通り、400,000 USD以下の落札はすべて25%が適用される。

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出典: Sotheby's

商品が時計であるならば、極一部の超高額品を除いて基本は25%の手数料がかかると把握した方が良さそうだ。

ちなみにこの手数料、年々上昇している。

 

直近では、昨今のコロナ情勢に絡んで"Overhead Premium"という手数料が追加された。

このオーバーヘッドプレミアムは、バイヤーズプレミアムとは別に落札額の1%に課される手数料だが、実質的にはバイヤーズプレミアムが26%へ上昇したとも捉えられる。 

en.thevalue.com

まとめると、落札金額に加えて手数料が26%発生し、そこへ更に送料を乗せた金額が最終請求額となる。 

現在価格だけを眺めていると、最終的な支払額を見て腰を抜かすことになるのは自明である。一見相場以下に見えても、最終的にはそうでもなかった、というのが頻繁に起こるだろうから、入札時には留意したい。

"Estimate"の影響力

サザビーズには"Estimate"という指標がある。これは、オークションハウス側が「これくらいの価格になるだろう」と目論む想定落札額のことで、出品される前に提示されている。幅は価格によるが、例えば10,000 - 15,000 USDなど幅をもって示される。

一見するとただの指標のように見えるが、これがなかなかどうして影響力が強い。

例として、直近2021年6月中旬に終了したオークション群"Fine Watches"を眺めてみる。

122点ある腕時計の落札データのうち、Estimate以下での落札は14点、Estimate以内は56点、Estimate以上は52点であった。実に全体の半数近くがEstimate以内で落札されている事になる。また、Estimate以下の落札は少ないのに、Estimate以上の落札は4割程度とかなり多い。

 

何故このようになるかといえば、やはり手数料の影響が大きいだろう。

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出典: Sotheby's

例えば上の例だと、Estimateは6,000 - 9,000 USDとなっている。落札時の価格は8,000 USDだったのだろう。8,000 USDでの落札となればEstimate以内じゃないか、となりそうなものだが、先述の通りここに手数料が乗る。

8,000 USDに26%を加算すると最終的に10,080 USDとなる。入札した時にはEstimate以内で落札できた感覚だったものが、最終価格で見るとEstimateを大きく超えている、という事態が往々にして発生するわけだ。手数料の重さがよくわかる例だと思う。

裏を返せば、Estimate以下で落札するのはなかなか難しいといえる。

サザビーズへの支払い

晴れて商品を落札すると、数時間後にInvoiceがメールで送付されてくる。

商品そのもののInvoiceと、送料のInvoiceとに分かれているが、合算して一度に払うこともできる。

また支払いの前には、公的な身分証明書の提示が必要となる。アプリ経由で免許証を撮影するなどが一般的なようだ。日本語の免許証にも問題なく対応している。

 

肝心の決済方法だが、日本在住の場合は基本的にクレジットカード支払いとなるだろう。となるともちろん外貨決済の手数料、それと為替が絡んでくることにも留意したい。

バイヤーズプレミアムも含め、手数料でいくら取られているかを考えると眩暈がしそうであるが…あと2年くらい早く出品されていれば、米国の銀行から支払いできたものだが、こればかりは致し方ない。

なお送料については200 USDを超える。そもそも国際便だし、補償もついているので仕方なかろうが、やはり額面を見るにプレミアム感がある。

 

後編へ続く