今から10年以上前だろうか、当時アパレル企業を経営していた知己が
「バーバリーブラックレーベル等を狂信する連中とは。いやはや。なかなかどうして御しがたい。」
と零したのを聞いたことがある。言うまでもなくこれは、いわゆる『ライセンス契約』による所謂『ライセンスブランド』に対する敵視からきた発言だろう。
そんなバーバリーブラックレーベルもその歴史の幕を閉じてから、はや4年と少し。日本におけるライセンス契約の代名詞とも言えるこのブランドの活躍の甲斐あってか、最近ではファッションブランドにおけるライセンス契約の存在については市井の知るところになってきたように感じなくもない。そしてこのライセンス契約が知られるにつれ、ややもすると否定的な意見が大勢を占めてきたようにも思う。
試しに『ライセンスブランド』とDr. Googleに訊ねようと画策しようものなら、
何と二つ目には「ださい」ときている。
なるほどださいのか、と興味をひかれるままクリックすれば、
このように「買っちゃダメ」と如実に警告するブログがヒットするほどである。浅学なる筆者も拝読してみたが、ライセンスブランドに関してかなりの積怨をお持ちのようだった。
が、それはそれとして、筆者としては個人的に3件目の題名にある『日本人』のワードにこそ目がいった。
厳密に言えば、『日本』の部分にである。
というのも、『ライセンスブランド』というのは何も日本に限った話ではない。現在筆者は米国ミシガンに在住しているが、出退勤時のあまりの日差しの強さに耐え兼ね、また予期せずカジノで勝ってしまった反動でSunglass Hutにてサングラスを購入した。
購入当時の筆者としては、単にセール品だったので購入に踏み切っただけであったのだが、眼鏡の似合うフレンドリーな女性店員がその会計時、
「素晴らしいチョイスね。プラダはあのレイバンよりもずっと品質が良いわよ。」
とにこやかに言ってきたので、何やら妙な胸騒ぎを覚えてしまったものである。
というのも、いかに浅学な筆者と言えどもLUXOTTICAの存在くらいは知っている。少し前に福井めがね工業が同グループによって買収された話が、日本でもそれなりに報じられたほどには有名な企業だ。
その上で、同社が手掛けるラインナップの中にはレイバンだけでなく、プラダも含まれている。ならばその時Sunglass Hutに並んでいたレイバンやプラダは、いずれもルックスオティカ製のはずである。
プラダの方がやや値段は高いとはいえ、レイバンも十分に高級品として製造されているはずで、その状況下でプラダの方だけ露骨に品質を良くするなんてことはあるのか?と根も葉もない疑念を抱いてしまった、というわけである。
まあそのような筆者の偏狭かつ陰険な疑念はさておくとしても、思えば筆者はルックスオティカくらいしかまともにアイウェアメーカーを知らない。そもそもそれはそれでどうなのか。
そこで本記事では、アイウェア界隈でどんなメーカーが犇めいていて、それぞれどんなハウスブランドとライセンスブランドを持っているのかについて、ぼんやりと調べながら垂れ流してみたい。
各社のハウスブランド
まずは主要各社のハウスブランド(保有ブランド)一覧から。(2019年12月時点)
今回はLuxotticaから順にSafilo, Marchon, Rodenstock, De Rigo, Marcolinをピックアップした。いずれもアイウェアメーカーとして著名な企業で、恐らくおおまかにはシェア順に並んでいるはずである。ちなみにシェア順で考えるならばFielmannも入ってくるはずだが、キャッチーなライセンスブランドが見当たらなかったため今回は除外した(そもそも主な情報源がドイツ語というのも辛い)。
各社色々と自社ブランドを擁しているようだが、まずはレイバンは別格として、次いでオークリーやオリバーピープルズ、あるいはポラロイドにスミスやポリス、といったところは日本でもよく見られるところである。最近はペルソールなども有名だとかなんとか聞いた気もする。シェアを調べるのは今回の趣旨から外れるが、レイバンは日本市場だけでなく、世界的に見ても突出したシェアらしいという事は付け加えておきたい。
各社のライセンスブランド
続いて各社がライセンス契約しているブランドに移りたい。(2019年12月時点)
ライセンスブランドだけあって、見覚えのある名前が一気に増える。
まずは最大手のルックスオティカ (Luxottica)。バーバリー、ブルガリ、シャネルにドルチェ&ガッバーナ。筆者もセールにつられて購入したプラダとその妹分ミュウミュウ、そしてティファニーと錚々たるブランドが立ち並ぶ。更にアメトラで有名なブルックスブラザースとラルフローレン、若い女性に人気のマイケルコースやトリーバーチとも契約しており、隙のない布陣である。
続いてサフィロ (Safilo) はというと、ディオールにフェンディ、ジバンシィとLVMH系のハイブランドが並ぶ。ケイトスペードやトミーフィルフィガーといった若者向けブランドも同じくラインナップとしているようだ。米国の老舗百貨店の代表格であるサックスフィフスアベニューが名を連ねているのも興味深い。
マーション (Marchon) はクロエ、エトロ、サルヴァトーレフェラガモといったハイブランドに加えて、近年になってDKNYとポールスミスのライセンスを取得したようである。
やや耳なじみのないブランドが並ぶデリーゴ (De Rigo) だが、ハイブランドのダンヒル、ジュエラーのショパールに加えて、これまた若い女性に人気のフルラを手中に収めている。
マルコリン (Marcolin) はバリーやゼニア、モンクレー、トッズ、そして何よりトムフォードとこれまた有力どころが多い。筆者にとっては意外だったのが、契約数だけならルックスオティカを抜いて最多らしい事だ。
雑感
こうしてぼんやり眺めてみると、アイウェアにおいてはかなりの数のブランドがライセンス契約を結んでいるように感じる。何かブランド名のサングラスを購入したとしたら、いずれかのアイウェアメーカーによってライセンス生産されたものである可能性が高いともいえる。ただこれは考えてみれば当然かもしれない。例えばもともと生地を得意としたアパレルブランドがアイウェアも得意かというと、恐らくそんな事はないだろう。餅は餅屋と言うが、既に実績を持っている専業メーカーの方が理に適っているであろうことは想像に難くはない。
そういう事情もあってか、ひとたびライセンス契約が終了すると、他のアイウェアメーカーに鞍替えして再契約するという事も結構あるようだ。上でも少し触れたが、ポールスミスとDKNYはもともとルックスオティカと契約していたところ、現在はマーションと手を組んでいる。
ライセンスじゃないブランドは?
こうなると逆に疑問として浮上してくるのは、
この一覧にないブランドは全部自社で生産していると考えて良いのか?
という事だが、どうもそういうわけでもないらしい。
例えばグッチはかつてサフィロとライセンス契約していたが、2016年にこれを終了した。同様にモンブランもマルコリンと長らくライセンス契約を結んでいたようだが、2018年には終了した模様で、一覧表にその名は確認できない。
では契約終了後、それぞれ自社で一貫生産し始めたという噂は見当たらず、じゃあアイウェアから撤退したかというとそうでもなく、これまで通り製品は発表されている。
つまり既存のアイウェア専業メーカー以外にライセンス契約先がまだ存在しており、筆者は間抜けにもそれを見落としていたということらしい。そして実際に少し調べてみると、やはり有力なライセンス契約先として2社浮上した。
しかもこの2社はいずれも新興勢力にも関わらず、既存勢力を脅かすほど強大な影響力を発揮しているとの見解も見られた。そして何より、既存のアイウェア専業メーカーと比較して、その成り立ちをやや異にしているようだ。
筆者からするとこれらはなかなかどうして興味深く、折角なのでもう少し追いかけてみたい。
従って、次の記事ではこれらの新興勢力2社について新たに一覧をつくり、ライセンスブランドについてもう少し垂れ流していきたい。
Raretsu