※この記事は多くの脚色が加えられておりますが、ある程度は事実です。
大学院生時代、成り行きでハンガリーを訪れた事がある。
その際ちょっと時間があったので、ちょっとだけ高級なレストランへ赴いた。目当ては食べられる国宝として名高いマンガリッツァである。
何分かなり前の事で、実はその時のマンガリッツァの記憶はあまり残っていない。というよりそれより記憶に残っているのが、『ワインリストが全く理解不能だったこと』である。仮にボーイが「ここには呪いの呪文が書いてあるよ」と言ったとしても信じたかもしれない。
最終的にはボーイのおすすめをいくつかもらい、それが非常に美味であったから満足したのだが。
そんなこともあって帰国後、ワインリストが読めるようになりたいと熱望したものである。そのため教科書として数冊の本を読み漁りながら、並行して近所のリカーショップにも月3回ほど通い、購入と試飲を繰り返した。
そうこうして2年ほど経過すると、あまりに高級だったりマニアックな店でもなければ、ワインリストで混乱することはなくなってきた。またいわゆるBYOを愉しむ余裕も出てきたことを記憶している。
BYOをする場合、基本的にはどこかの酒屋でワインを購入しておく必要があるのだが、そういう時に筆者はとある珍妙なマイルールに従うようにしている。
それは、
1. 1000円以下のワインは、たとえ土下座されても買ってはならぬ
2. 4000円以上出すなら、シャンパンを買っておけばよかろうが
というものである。1000円以下のシャンパンなど通常存在し得ないため、これら2つの指標が喧嘩することはない。
無論、どちらも筆者の主観が極めて多分に絡んだ曖昧な指標であるからして、
1000円以下でもおいしく飲めるワインはあるし、
シャンパン以外の4000円以上のワインが無価値と言うわけではない。
ただ、特にBYOの場合は自分以外の参加者がいる事が前提としてあるため、より無難なセレクトをするためにそういう指標が朧気ながら形成されてきた、と言うだけの話である。
衝撃の邂逅
ところでこの指標は円単位であるから、当然筆者が日本で使っていた指標である。
ではここ米国においては指標はどうすべきか、と漫然とインターネッツを彷徨っていると…奴はいた。
なんとここアメリカでは、10ドル以下でシャンパンが買えるというのである。
ただ残念ながら品切れであった。それはそうだろう。シャンパンがたったの7ドルとあらば、買い手が殺到することは想像に難くない。恐らく閉店セールか何かで特価中の特価、出血大サービスといった類で安売りされていたものなのだろう。
いささかの落胆は隠せなかったが、Targetがだめなら競合相手のWalmartはどうかと足を運んでみると、
奴はいた。
1ドル=108円とすると、6.98ドル=753.84円。
どうやらここ米国では、本当に1000円以下でシャンパンが買えてしまうらしい。しかも今回は文字通り山積みでご対面である。さすが世界一位の売上を誇る企業である。
ともあれ1000円以下のシャンパンが存在するならば、筆者のマイルールは煙を立てて機能停止する他ない。
こうなってしまっては、購入しそのお手並みを拝見させていただこうではないか。
ラベルを見てみる
早く飲んでみたい!とはやる気持ちを抑え、まずはラベルを舐めるように見てみるとしよう。ワインにおいて、ラベルとは大変重要な情報源なのだ。
筆者は寡聞にして聞いたことが無いのだが、Cook'sというメゾンらしい。Wikipediaのシャンパーニュリストを参照してみたものの、このメゾンの名前は見当たらない。1859年から続いているならば載っていてもよさそうなものだが、よほどマイナーなメゾンのようだ。
CALIFORNIAという文字列がなんだか気になるが、それでも後ろにCHAMPAGNEと誇り高く書いてあるのだからシャンパンなのだろう。CHARMAT METHODというのも少し気になるが、仮にもCHAMPAGNEとしっかり書いてあるのだから、シャンパンなのだろう。よく見ればシャルマ製法と読める気もするが、まさかそんなことはあるまい。おおおかたシャンパーニュ製法と書こうとして誤植してしまったのだろう、ラベルを間違えしまうとはなかなかうっかりさんである。
”1859年から並外れて高品質のシャンパンを生み出している”とあることから、品質には一家言あるメゾンであることが伺える。しかもChampagneとしっかり固有名詞で書いてある。リンゴや梨のフレーバーや、トースト、フローラルなニュアンスが感じられるようだ。BRUTとある通り、近年主流の辛口なシャンパンのようである。
飲んでみる
栓を開けた瞬間、リンゴやトーストを彷彿とさせる芳香が鼻腔をくすぐる…ということ全くはなかった。
しかし注いでみると、シャンパンらしい細かな泡…ではなく大分荒っぽい泡が主張する。
そして口に含むと馨しい香りと共に辛口の切れの良さが…と言う準備まではしていたのだが、とてもBRUTつまり辛口とは思えないほど甘く、大味だった。
総評
※補足
この記事はCook'sを貶める意図で書いたわけではないが、これは間違いなくChampagneではない。つまり、シャンパンを買いたいならこれは買ってはいけない。
アメリカに日本で言うところの不正競争防止法があるのかは存じ上げないが、日本でもかつてこのような事件があったわけであって、シャンパンの威を借りて販促を計るのはあまり褒められた行為ではないだろう。
もちろん「我はこのCook'sの味が好きなんだ!邪魔をするな!」 という諸兄姉に対しては、それそれで存分にお楽しみいただければと思う。