一度日本を離れてミシガンへ来てみると、日本のニュースを目にする機会が減る。
…というのは筆者が浅学で物臭なだけだろうが、その面倒くさがりな筆者も、最近こんなニュースを拝見した。
当初これらを目の当たりにした時には、
・天下の日経新聞様が、専門の経済分野に関して書いているのだから、所謂Evidence-Basedな話で、これは実際に起こってることなんだろう
とぼんやりと考えて放置したものである。
更に後日、この話に関連してはこのような記事も話題をかっさらっていると聞いた。
これを目にした際も、
・ブログ人も意見されているようだが、筆者は経済分野など完全に門外漢、更に時事に疎いとなると書けることなどないだろう
と感じたくらいであった。グレタ嬢に関する記述部分は正直「?」と言う感じだが。
また、アパートの指定駐車スペースで毎日、5シリーズとQ5の間に1世代前のカムリをねじ込んで停めている身からすると、サンフランシスコに限らずミシガンでもこうだから、米国の人は平均年収が高いのだろうなあ…とかぼんやり思わないでもなかったわけである。
が、改めて発端である日経新聞の記事を眺めると、
『マーサー』
とあるではないか。
そう、これらの記事は何を隠そう、あの『マーサー』の『指数』をベースとしているのである。
日本人駐在員の諸兄姉であれば、
『マーサー』『指数』
と聞いた瞬間、
思わず苦虫を噛み潰す準備を始めるぞと言わんばかりの瞳で見つめたくなる
という御仁も、ちらほらおられるんではなかろうか。筆者はそうである。
というのもマーサー (直接的にはマーサージャパン) は、日本人駐在員の給与を決定する、とある指数を算出しているからである。簡単に言えばマーサーの出す指数が高ければ給料は上がるし、低ければ下がるので、ある意味駐在員の生殺与奪を握っていると言っても過言ではない。
件の指数に関する詳しい説明は避ける、というよりどういう計算がされているかはそもそも駐在員には知らされないので説明しようがないが、基本的には日本円と比較して高いか低いかという指数で、円高に動くと低くなり、円安に動くと高くなる。
仮にこれが下がった場合、その任地の駐在員給料は減る。それに対するマーサー側の説明としては、
「指数が下がったのは円高のせいだ。その分生活費も下がっているから、お前の生活には影響ない。」
といった論拠である。が、当の駐在員側としては
「なんだ!給料が下がっているじゃないか!しかも実際の物価は下がってないぞ家賃も高いしどうしてくれるんだ杜撰な調査しやがってeあqwせdrftgyふじこlp」
となる事がある。
そして実際のところ、任期中のどこかで指数の低下=給料の目減りを経験する諸兄姉は一定数存在する。先述の通り指数の算出方法はブラックボックスな事も相まって、駐在員からするとややもすると警戒対象になるというわけである。
(注1)マーサーがいい加減な計算をしている!などと主張する意図は特にない。ただ実際の現地感情は非常に即物的なもので、どうしてもそういう側面が多くなりがち、と言う意味合いである。
(注2)こうした指数を出している企業はもちろんマーサー以外にもあり、タワーズワトソンの指数を使っているという別会社の御仁の話も聞いたことがある。駐在員の反応も似たようなものらしい。
そしてそんなマーサーの値が記事の拠り所となっているとあれば、仮にも駐在員の端くれとしては俄然、何でもいいから何かを垂れ流してみたくなる、という寸法だ。
さて1300字ほどもかけてようやく筆者の邪な動機が詳らかになったところで本題に移ると、件の記事ではサンフランシスコが取り上げられていた。
サンフランシスコというのはカリフォルニア州の中にある街であって、米国にはその州がなんと50もあるわけである。となると街単位でひとつひとつ見るのは筆者が飽きてしまうので、州ごとの値を引っ張って垂れ流してみる事にする。
なお米国各州のデータに関しては、The Census Bureauより引用した。
垂れ流すにあたっては、各州の2017年の世帯年収(中央値)を採用した。また件の記事中では何やら2007年のデータもこんにちはしているようなので、それも含めてみた。
米国各州における世帯年収 (中央値)
ここから匂う事柄について、いくらか垂れ流してみる。
- 2017年における1位は彼のメリーランド、2位は僅差であのニュージャージー
- 2017年における最下位はやはり僅差でウェストバージニア
- ミシガンは2007年から2017年で-3.38%転落
- 米国全体としては微増
- 米国広しといえど、やはり広い
といったところであろうか。何やら途中から趣旨が変わってしまった感もあるが。
では対する日本はどうかといえば、2017年の国民生活基礎調査結果によれば、全世帯における世帯年収の中央値は442万円である。同時期の米ドル (1ドルおよそ110円~115円) で考えた場合、$38,435~$40,182くらいの価値になるようだ。
更に2007年の同調査によれば、世帯年収の中央値は451万円である。これも同時期の米ドル (1ドルおよそ110円~120円) で考えると、$37,583~$41,000くらいの価値になるようだ。
確かにこう見ると日本の中央値は3分の2程度と低く、かつ伸び率も良くはなさそうである。ただ、実際の生活水準は現地の物価や地価等にも影響される。
例えば現在ミシガン在住の筆者アパートの家賃は月$1,600で、これは日本円に換算すると約17万円になる。家賃17万、と聞くとさぞ豪邸のように聞こえるが、現地の感覚では「狭くてちょっと古い感じだね」という程度らしく、つまりかなりつつましい住まいということである。
また、6年前に殆ど同等物件に在住していた方は月$1300くらいだったというから、1年でおよそ$50ずつ値上がりしている計算になり、ここもかなりインパクトが有る。そして今後も家賃は上がり続けるらしい。
といった感じで、実際には家賃以外にも多くの要因があり、それらはしばしば『生計費』などど形容されたりもするが、その点を考慮したい場合はこちらの企業が提供している各都市の指数が活用できる。
…というわけで最終的にマーサーに戻ってきてしまった。無常である。
マーサーへの妄念はとりあえず置いておくとして
何にせよ、件の記事によれば
「米国住宅都市開発省が世帯年収1400万円の4人家族を低所得者と見做した」
のは事実なんであろうし、そもそもこの記事は
「雇用のあり方をなんとかしなくては」
「人材確保のための発想の転換が必要」
といった論調で結んでいる。筆者の周りでも海外に活路を見出す若年層が漸増している気はするし、程度はともあれ少なくとも憂慮すべき問題なのは間違いないのだろう。
後で思うと、この一連の記事は
1. 記事の題名だけ見た場合
2. ログインなしで読める部分だけ読んだ場合
3. ログイン後に読める部分も含めて、最後まで読んだ場合
4. その記事は読まず、それを扱ったブログ(この記事)だけ読んだ場合
の4通りで、受け手の印象が大分異なってくるんではないかと思わなくもないが、そこは暗に日経新聞が
「会員になって最後まで読みなさい」
と囁いているということだろうか。
ちなみに前置きで「マーサーの指数はブラックボックス感がある」と言いつつ、その舌の根も乾かぬうちにThe Census Bureauのデータを何ら妥当性の検証もなくしれっと引用している件については、さすがにお詫びする。
Raretsu