先日の記事においては、恐れ多くも千手千眼観自在菩薩の慈悲深さに触れながら、その御手の多さには遠く及ばずとも100を数える選択肢、もとい粒度の調整幅を誇る奢侈なるハンドミル、その名もアポログラインダーについて個人的な意見を垂れ流した。
本記事は僭越ながら、その後編にあたる。
前編ではこのアポログラインダーの調整幅が100を超えていると記載したが、実際にはどのように、どのくらい削り倒せるのかこそが肝要であるだろう。たとえば1000ダイヤルあったとして、それが全部粗挽き向けだったとしたら、あまりに実用性に欠けると言えよう。
ときに、アポログラインダーの説明書を確認してみよう。
この古文書風味な紙面を簡単に要約すると、
一、分解するべからず。貴様の手には負えぬ。
二、零点調整は時計の方向へと攻めよ、さすれば自ずと判る。
研削のすゝめ
急行:零点より反時計回りに九つ、或いは十の段階。
手仕事:零点より反時計回りに十四から十六の段階。
一つの段階は五つの数えに匹敵す。
我が忠告を聞け:机の隅に置くべからず。畳表への強打は避けられぬ。
以上のような内容である。
時計回りに回すと細かく、その逆は粗くなるという事は前編でも述べたとおりだが、説明書ではもっとも細かい設定を基準(零点)と表現しているようだ。
つまり、エスプレッソ用の場合は基準から45クリックから50クリック程度、ハンドドリップの場合は70クリックから80クリックの間が推奨値という事らしい。ちなみに回した感じだと、零点から反時計回りにおおよそ110回くらいは回るようである。
そこで、いくつかの段階に分けて実際に挽いた粉の状態を見比べてみたいと思う。
コーヒー豆は近所のBirmingham Roastで購入したTHE FIREを使用した。
同店はBirminghamエリアでもかなりお洒落なカフェで、客足の途絶えない人気店でもある。何かの機会でいずれ紹介したいところである。
さて、見比べるとなると比較対象が必要になるわけだが、前回も紹介したデロンギ製KG364Jにその任を全うしていただこうと思う。
KG364Jの場合、粒度は13段階だか14段階だかで調整できる。(無改造の場合)
とりあえず3段階として、最も粗いCoarseの右端、中間のMediumとFineの間くらい、そして最も細かいExtra Fineの左端の三か所を取ってみる。
見たところ、粗めから細かめまでそれなりの範囲で挽けているように見受けられる。Extra Fineは結構な細かさで、家庭用のポンプ式エスプレッソマシンに使うのであれば十分以上である。
再三申し上げているが、やはりKG364Jは家庭用のグラインダーとしては非常にコストパフォーマンスに優れた機体なのである。
続いて件のアポログラインダー卿である。
ひとまず零点(時計回りにいっぱいまで回した状態)からおよそ110クリック、90クリック、60クリック、30クリック、5クリックの5か所で試みた。
零点の一番細かい設定も試したみたが、あまりに細かすぎるのか粉が一向に出てこず、5クリックにて実施した。
5クリックだけやたらと量が少ないのは、出てくるのに異様なほど時間を要するために割愛しているためである。
アポロ卿でいうところの110クリックは、KG364JのCoarse設定よりもやや粗めに見える。また5クリックは細かくなりすぎているのか、粉というよりは塊のようになってしまっている。写真だと潰れて非常に見づらいが、触った感触では明らかにKG364JのExtra Fineよりも細かい。
とはいえ5クリックはグラインドに異様なほど時間がかかり、とてもではないが実用的ではない。
ただし、一般的に極細引きが要求されるエスプレッソ用ですら40クリック前後で事足りるのである。実際に筆者がエスプレッソを落とす際も、45クリック前後で丁度いいと感じている。したがって5クリックレベルの挽きを必要とする場面は、浅学なる筆者からすると思慮の外にあると言っていい。
本来ならば粒度分布なども計って然るべきかもしれないが、設備の問題もあるし、何よりあまりにNardな内容になっても気が引けるというものである。
こういう時に限り、あくまで浅学の身であることを良しとしたい。
以上まとめると、
粒度の調整幅は110段階程度
最も粗い設定だと、Delongi KG364Jよりもやや粗めに挽くことが可能
細かい設定を攻めれば、Delongi KG364Jよりも更に細かく挽くことが可能(ただし、その必要があるかどうかはやや疑わしい)
以上のような内容になるだろうか。
たったの3行で済む話を、2000字以上もの文字数を使い冗長さの極致を体現する辺境ブログの存在は全く嘆かわしいものである。
流石はプレミアムなハンドグラインダーというだけあって、そのカバー範囲はKG364Jを上回るものであった。細かさについて言うとやや過剰性能気味な気もするが、価格を考慮すればむしろ過剰なくらいが小気味よいというものかもしれない。
また前編でも述べているが、無論このアポロ卿は性能も優秀なのであろうが、単純に豆を挽くというだけに留まらず、”使う人間側の感覚面を考えて設計されたツール”という側面も孕んでいるように思う。
例えばデザインであるが、アポロ卿は他のプレミアムなハンドミルに比べても洗練されたもののように感じる。
ボディはフライス盤で削っているというから、切削痕でもあるのかとおもいきやそんなこともなく、またその適度な重さは高級感を演出する。
別にベアリングが凄いなどと宣言するつもりは毛頭ない(規格品のベアリングの値段など、本当に微々たるものだ)が、それでも回転部分に2か所配備さている分、挽く際の感触向上には間違いなく一役買っているだろう。
そして何より、この粒度調整用のクリック機構である。いちいち分解せずに調整できるというのは面倒くさくなくて良いし、このクリックの感触自体が妙に小気味よいのである。調整する必要もないのにいじりたくなるような、そういう感覚すらある。
これは喩えるなら、巻き心地の良い手巻き時計をいじる感覚に似ているかもしれない、とは筆者の妄言であるが。
なかなかどうしてその心地が良いものだから、最終的にこんなものまで作ってしまったのだから、これはもう始末に負えない。
とはいうものの、このアポログラインダーは本体価格だけで$280+送料という事は忘れてはならない。
単純にハンドミルとして見た時には、その価格はもはやプレミアムを通り越してラグジュアリーとすら形容できるかもしれない。
そのあたり、やはりこのApollo manual hand grinderは”道具+αの感覚”を求めているユーザーにこそしっくりくる製品といえるかもしれない。
ちなみに、挽いた豆が出てくる受け皿の形状であるが、現在使用中のポルタフィルターの径にしっくり来ている。
Approved by La Pavoniと箱に書いてあったような気がするが、その辺も考えられているのかもしれないと愚行する筆者であった。
Raretsu