モノ魔リスト

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必要ではない。だがよく考えてみると、たしかに必要ではないようだが愛すべきモノたち。

【CHAMBORD SELLIER LILLE】妖艶な曲線美×エスプリを併せ持つものぐさ向け多用途革鞄

 

 

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何か高価な買い物をする際、『良いものを長く使えばよいではないか』という理論の元、購入への後押しとする方がおられるのではないかと憶測する。この信条はしばしば『安いものを頻繁に買い替えれば良い』という信条と争いを始めることがあるが、実際どちらが良いかは即断できないところがある。何事につけ、大量生産の手法が洗練されている今日においては後者に軍配が上がる場合も散見されるが、最終的な選択は個人の裁量に任されるところであって、この愚昧なる筆者に関して言えば前者の思考に完全に寄生されているといってもいい。

 

 

 

とは言いつつも、実際の経済状況は裕福とは対極の位置にある筆者であるから、高額と思える物品の購入の際には『長く使えそう』であることに加えて、このところはやれ『使い勝手良さそう』だの『他人と被らなさそう』だのと、他のの特徴までも考慮するきらいが強まってきた。高い金額を払っているんだから加価値をよこせ、という短絡的な消費者心理に支配されているのがありありとわかる。

 

そんな七面倒な条件を小脇に抱えて物品を検討するのは、文字通り面倒ではあるものの、その反面結構面白かったりする。

恐らく最も面倒なのは条件ではなく、選んでいる筆者という人間自身なのだろう。面倒くさい物品を好む面倒くさい人間とは何ともお似合いな気もする。

 

 

 

 

さて、そんな面倒にして陰険な筆者であるが、ここ2ほどとある1つの鞄をやけに重用している。重用というより乱用に近いか、何せ仕事だろうがプライベートだろうが、あるいは日本にいようが米国にいようがおかまいなしにヘビーローテーションなんである。

その鞄というのは、CHAMBORD SELLER(シャンボールセリエ)ブリーフケース、LILLE(リール)である。

 

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2年以上使用しているためにややくたびれているが、実用上支障はない。

 

 

こちらのシャンボールセリエだが、HERMESやらCARTIERなどに代表される、所謂高名なハイブランドの鞄ではまったくない。というよりどう贔屓目に見ても知名度は低く、ともすれば一般知名度は皆無と言ってすらいいだろう。その割にフランスのエスプリ価格を当然のように要求してくるので、ややこしいといえばややこしいメーカーである。

一般的にはほどんど知名度のない(と思われる)同社がこの価格を設定してくるのは、誰が言ったかあのHERMESやらCARTIERやらフランスが誇る高名なメゾンの生産も手掛けてきたとかいう触れ込み込みの策定結果なのかもしれない。

 

 

 

さてこのリールであるが、一見すればわかる通り装飾も少なく、極めてシンプルなデザインであるといえよう。シンプルがゆえに、カチッとしたスーツからある程度ラフな格好まで、割と広範囲に対応できる。

一方で、全体的に曲線が占める比率が多いように思える。更にそのやや長めな持ち手も相まってか、どことなくユニセックスなデザインにも見える。

 

もちろんれっきとしたメンズ向けの鞄であるため、売り場は男性用鞄の一角になることが多いだろう。つまり、角がピシっとしたかっちりしたデザインの多いメンズ鞄の中にあって、くたっとした鞄がちょこんと鎮座し、しかもそれがシンプルさに反比例した値段を誇るような様相になる。この様子というのが何やら、ちょっと『気の抜けた』ような、あるいは『ちょっとふざけている』ような感覚を生まないでもない。(ちなみにデザインの立ち位置としてはCiseiも似たようなところにいるのでは、と憶測する。)

 

 

 

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この手のデザインを筆者流に曲解すると『一見シンプルだけど、何やらちょっとややこしそう』なデザインであり、それが実に小気味よいと感じたものだ。へそで茶を沸かしたくなるような理屈だが、ややこしい人種からすると、ある種のややこしさは美徳に近いとすら言って良いのである。

つまるところ筆者からすればこの鞄のフォルムは『素晴らしく』洗練されている』類のものであるといって相違ない。

 

 

 

 

そんなややこしいシャンボールセリエであるが、既にいくつかのバリエーションで鞄を展開しており、こちらはLILLE(リール)と呼ばれるものである。外装カラーはネイビーだが、他にブラックと、ブラウンもあるそうである。

ネイビーをこよなく愛す(と言えば聞こえはいいが、単に固執しているだけである)偏屈な筆者としては、このカラーこそまさしく天啓だと勘違いしたものだ。

  

 

 

ちなみに同社は外装にいくつかの皮革を使用しており、これはLAGUNと呼ばれるシボ革を使用している。他にはCALPEと呼称される型押し革もあるようである。(なおこちらによると、それ以外のバリエーションもあったりするようだ。)

 

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LILLEのLAGUN(ネイビー)の表面。しっかりとしたシボ感が出ている。

 

さて、シボやら型押しやらと言及すると、それを耳にした時にどうしても気になってくるのがそれぞれの皮革がどこのタンナーの物なのか、という疑問であろう。

 

浅学なる筆者は、購入検討時にその見た目と感触等から何となく下記のようではないかと憶測を立てている。

 

CALPE→フランスのHAAS社のEPSOM(エプソン)?

LAGUN→フランスのRemy Carriat社のTAURILLON LAGUN(トリヨン・ラグーン)?

 

 

EPSOMはHERMESの展開でいうところのVeau Epsom(ヴォー・エプソン)で、TAURILLON LAGUNTaurillon Clemence(トリヨン・クレマンス)だと言われている背景がある。

このシャンボールセリエが、本当にかつてHERMES社の生産を手掛けていたとするならば、それらの会社と同じ皮革を用いていたとしても特におかしな点はないだろう、と更に憶測を重ねている次第である。とはいえ所詮は憶測であるので、別にあっていようが間違っていようが、大した問題にはならないのも確かではある。

 

ちなみにどちらの皮革にも通用する事項として、単純に高価というだけでなく

・シュリンクあるいは型押しのため、傷が目立ちにくい

・水にも強い

という点が挙げられる。このあたりは実用性を高めるにあたりかなり有用であることは述べておくべきだろう。

多少のひっかき傷であればまず目立たないし、多少濡れた程度ではシミにもなることもない。ヌメ革やブライドルレザーの鞄などに比べると、かなりストレスフリーである。

 

 

ちなみに金具にはシルバーゴールドのバリエーションがあるようだが、調べた限りではシルバーの方が入荷数が多いようだ。そもそもゴールドは生産数が少ないようで、筆者が探した限り(約2年前)では、有楽町ESTNATIONにCALPE×ゴールド金具のLILLEが数点在庫として残っているのみであった。

 

ちなみにゴールドは、その色合いが結構はっきりしたYG(イエローゴールド)なので、例えば仕事で使う場合には、職種によってはやや目立つ可能性もあると感じた。

これがITADAKIの財布に使われているようなピンクゴールドであったならば、もう少し印象が違ったかもしれないが。ともあれ入手性の困難さと色合いを併せ考えて、シルバー金具のLILLEを選択した経緯がある。

 

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金具にはCHAMBORD SELLIERと刻印されている。他のラグジュアリーブランドでも見られるように、サプライヤーの刻印は消しているようだ。

 

 

 

ちなみに内装はいずれのモデルでも外装と同色の布地のようである。内装の素材は人によって好みが分かれるだろうが、この手の鞄に関して言えば布地で正解だろう。

  

例えば筆者もかつて使用していた万双のダレスバッグなどは非常にしっかりとした造りで、内側は総革張り間仕切りもしっかり備えている。ある意味でシャンボールセリエとは真逆の鞄といえる。

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かつて筆者が所持していた、万双のダレスバッグ。色もネイビーで外観も大変好みだったのだが、内側も全て革張りなこともあってか重量はおよそ2kg。軟弱な筆者がほどなく手放してしまったのは記憶に残っている。

デザインも非常にクラシックで美しいのだが、外装の肉厚さと革張りの内装が相まって、かなりの重量級となってしまうのである。鞄それ単体で2㎏となると持ち歩くのも結構大変で、筆者の場合は泣く泣く手放す結果となってしまった。

 

その点、このリールは内装が薄手の布地であるために重量は実測でおよそ1kgである。

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普段使いとしては、これよりも重量が増えると厳しくなってくる感がある。

 

 

 

 

 

ともあれこのシャンボールセリエ、同じ形の場合は外装の素材違い、色違い、金具の色違いのバリエーションがあるということになる。ほうぼうを聞いてまわって得た感触からすると、生産時期によっても色々仕様が微妙に異なる場合もあるようだった。

すべての組み合わせが存在するのか、そして型番などで明確に指定されているのか、などは正直詳らかではなかった。このあたりの曖昧さにも何やらややこしさというか、エスプリを感じる。

同社のほかの鞄でも大体同じような傾向のようで、外装の色と素材、金具色でバリエーションが存在するのを確認している。LILLE以外についてはあまり調べていないが、たとえば一回り大きいブリーフケースのRivau(リヴォー)にはゴールド金具の仕様があるが、やはりその数は少ないようであり、また色合いも所謂YGであった。

 

 

 

 

 

上述しているように、デザインと価格、仕様において色々とややこしいリールであるが、見た目と同じくらいに印象的なのが、購入検討時に受けた説明として『実用性は度外した鞄』『見た目が全ての鞄で、そもそも物を入れるのは向いていない構造』というような内容を散見したことである。

少なくとも『沢山物を入れる方には向いていません』という観念はいずれの説明にも共通していたように記憶している。

 

 

 

 

当時、これらは恐らく下記の特徴から、合理的に判断されうる事実が反映された説明なのだろうと予測していた。それは以下の3点からなる。

 

鞄の中に間仕切りがない

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伊勢丹のベテラン販売員をして、「実用性は度外視された鞄」と言わしめた圧巻の内部構造である。

 

ポケットも内側に1つだけ

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ちなみに決して大きなポケットではない。

 

一応自立するが、外装がくたっとした素材で頼りない

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底部には5つの金具があり、一応それなりに安定して自立はする。ただし物を入れすぎると外装の柔らかさ故、ゆったりと倒壊する。

 

これらは確かに一般的に見ればマイナスポイントであり、機能性を重視した男性用鞄と比した際には尚更だろう。内側だけでなく外側にもいくつもポケットを配した商品が多い昨今、実用性を蔑ろにしていると判断されても致し方がないだろう。

 

 

 

 

ところがこの実用性を度外視したはずの鞄、それを2年間にもわたり、このずぼらな筆者が公私ともに乱用しているというのである。一体いかなることか。

 

これに対する答えというのはごく単純で、『ずぼらな人にこそ使いやすい』ということなのである。

 

 

 

ポケットや収納を効率よく取り込んだ、つまり機能性に富んだ鞄というのは、そもそもずぼらな人向けではないのではないか、という話である。まめな人であれば、『この書類はこの仕切りへ』『小物はこのポケットへ』『電子機器はこの収納へ』というのがある程度構築されており、鞄を選択する際にもそこがマッチするか判断をするのだろう。

 

ところがこれがずぼらな人種となると『適当に詰め込む』と、これで終わりなのではないか。少なくとも筆者の場合はそうで、だとすればせいぜいポケットを1つか2つ使えるかどうかが関の山であり、間仕切りがあったとしても宝の持ち腐れ以外の何物でもなく、ややもすると『この間仕切り邪魔だな』とすらなりうる。

鞄の製作者の心遣いを頭から踏みにじるような所業にも映るが、これは文字通りその通りなのだから致し方がないだろう。

 

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14インチのノートPCを放り込んだ図。横幅はそれなりにあり、まだ余裕がある状態。

 

 

またカチッとした男性用鞄が多い中、リールはくたっと(語弊を恐れず言うならばふにゃふにゃした)した鞄であるわけだが、これもずぼらな使用者には追い風となりうる。

というのも、乱雑に物を詰め込んだり、或いは妙な形のものを入れたとしても、ある程度対応できるのである。これは間仕切りのあるカチッと鞄にはできない芸当であろう。

 

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鞄の間仕切りと聞くと、筆者としてはどうしても想起してしまうのがこの図である。この場面ばかり切り取って繰り返し喧伝する姿勢は褒められたものではないだろうが、この鞄がセリエのRivauやLilleであったならばどうなったのであろうか。

出典:SankeiBiz

 

 

 

とはいえもちろん、詰めれば詰めた分だけその形に反映されるので、代償として取り柄であるデザインは台無しになる。

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角があるものを無理やり詰めるとこのようである。内装は薄めの布地で破れる恐れもあるので、この状態で長期間運ぶのはお勧めできない。それに、そもそもそういう用途と意図した鞄ではないとも思う。

 

 

 

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ともあれ愚にもつかぬ個人的な感想を長々と垂れ流してきたが、筆者が2年間の期間でこの鞄に持った結論を1文で表現するならば、

ずぼらな人向けの、やや肩の力が抜けた良デザインの、ちょっと高めなマイナー革鞄

である。

 

Raretsu