モノ魔リスト

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必要ではない。だがよく考えてみると、たしかに必要ではないようだが愛すべきモノたち。

【SHINOLA シャイノーラ】新生デトロイトを牽引するは、洒脱なる意匠か、即妙なる手腕か

 

 

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新生デトロイトを象徴するブランドたり得るか、はたまた…?


※1 およそ1500文字におよぶ冗長にして内容の薄い前置きを、何としても回避されたい方はこちらへ。

※2 その後2500文字以上に及ぶ冗長にして個人的な意見の垂れ流しを、是が非でも回避されたい方はこちらへ。

 

 

腕時計の明日を憂う腕時計フリークの諸兄姉に対し今さらになって説く必要もなかろうが、新興の時計ブランドを発見した時の興奮とは、なかなかどうして筆舌に尽くしがたいものがある。

特に、単純な値段の安さのみによって勝負するでなく、そのクオリティに一定の自負を掲げているブランドほど、その行く末が気になるものである。そしてそれが、かつて財政破綻の辛酸をなめた街その直下にて、復活の狼煙よろしく高らかに産声を上げたとなれば、その期待値が高まるのも必然といえよう。

 

さて、そんな再帰を約束したブランドこそ、このアメリカデトロイト発シャイノラ【SHINOLA】である。

www.shinola.com

 

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SHINOLA FLAGSHIP WOODWARDの店舗。近辺には比較的高級店が多いが、わけてもFancyに仕上がった店舗といえるのではないだろうか。

 

このSHINOLA、聞くところによれば2011年に始まったという事である。腕時計メーカーの括りで言えば、賛否両面の意味で話題になったKnotよりも4年も前に創業している事になる。更にこれまた爆発的なヒットを呼び、かつ議論を呼ぶメーカーであるDaniel Wellingtonと同年だというのだから驚きである。いや、驚くべきは筆者の浅学ぶりであるか。

 

なお日本にも、およそ2年前に上陸を果たしているようだ。百貨店の雄たる伊勢丹にて取り扱いがあるというのだから、創業者としても鼻高々であろう。既に直営店は30店舗を数え、更にこのSHINOLA、勢いそのままに時計のみならず、皮革製品アクセサリー自転車、更にはホテル経営まで手掛けているという。まさしく飛ぶ鳥を落とす勢いと言う他に形容する言葉が見当たらない。

 

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先述した通り、陳列も含めてFancyに仕上がっている。

 

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HERMESやVITTONのような業態であればいざ知らず、時計ブランドで自転車を、というのは少し珍しいように感じる。

 

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ホテルの入り口もなかなか洒落た雰囲気である。なお左隣にカフェも存在する。

 

またこのSHINOLA、いわゆる低価格であることを強みとしたダニエルウェリントンやKnotとは異なり、MADE IN USAであることを前提に、そこへ現代的なデザインを結集させ製品へと昇華させているという。

 

これらの矜持からか、時計の価格帯はメンズのクォーツタイプでおよそ6万円~、自動巻きで10万円~20万円前後。レディースも6万円~、ダイヤモンドセッティングで約30万円といったラインナップである。なお基本的にケースはステンレス製(あるいはPVD)で、18金ケースのラインナップはないようである。ちなみに手巻きモデルも存在しない模様である。

※目安の価格はいずれも2019年6月現在の本国価格。

 

 

 さてそんなSHINOLAであるが、曲がりなりにもその生誕地ミシガンに駐在しているからには、その実店舗を訪問し実物を拝見することこそ、世界標準の道理といえよう。特にブランパン、いやBlancpainをデトロイトへ連れてこなかった筆者としては、アメリカの先鋭たりうる彼の物を一目見ずして帰還は許されまい。

 そのような止むに止まれぬ事情によって訪れたのが、冒頭にて紹介したSHINOLA FLAGSHIP WOODWARDの店舗である。

さて、およそ1500文字におよぶ冗長にして内容の薄い前置きはここまでにするとして、ここからは筆者の極めて個人的な偏見にまみれた冗長にして内容の薄い感想を垂れ流していくことにする。

 

 

 

- SHINOLA (シャイノラ) -

 

特筆すべきではなかろうか、と思案する点

1. 優れたデザイン性

2. デトロイト発という希少性

3. サイズ展開の幅広さ(ユニセックスモデルの存在)

 

 

1. 優れたデザイン性

これはブランドのコンセプトそのものであるからして、わざわざ指摘するまでもない点ではあろうが、極めて個人的な視点で見たとしても、なかなかどうして調和のとれたデザインではなかろうかと感じる。

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左から2つ目はヴィンテージ感のあるケース仕上げのようである。また、レザーは彼の高名なHORWEEN社のものであるとか。

 

最近はクラシックな顔つきのアナログ時計が増えたように思うが、このSHINOLAのデザインはアナログであるのみならず、都会的なデザインでありつつ、それでいてなお洒脱でさえあるといえるのではなかろうか。写真で言及したケースのみならず、文字盤の素材や色合いも既に様々出ているようで、モデルによって表情は豊富である。

アメリカはデトロイト発と銘打つと、ややもすると大味なデザインが想起されそうであるが、そういった憶測をいい意味で裏切っていると感じる。

 

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レザーストラップのモデルが多いように感じたが、ステンレスブレスのモデルもラインナップされている。一見すると真ん中のモデル、その色合いも相まって某3大ブランドの海を越えた何かのエッセンスを感じると言っても過言であった。

 

現代において、腕時計(特にアナログ時計)のデザインというのはある程度出尽くした感があると思われるので、たとえ最新作であれ、過去のどこどこのデザインに似ている、などという事はブランドを問わず起こりうる現象であるだろう。故に「どこどこのパクりだ」などと逐次やり玉に挙げるのは厄介な議論を呼びかねない。無論、あまりに露骨なそれは時に断罪されるケースもあろうが。

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所謂ダイバーズウォッチの原型はFifty Fathomsで提案され、続くSubmarinerで確立されたと伝えられるが、このモデルはそれらのニュアンスを取り入れつつまとめられたデザインと言えるのでは。LAKE MICHIGANという名前も小気味よく感じられるようだ。

出典:SHINOLA

 

そんな複雑な時計の世界において、ヴィンテージ感もあり、都会的なエッセンスも感じられ、どこかかわいらしいニュアンスも示唆する同社のデザインはなかなかいい立ち位置にある、と言えるのではないだろうか。

 

 

2. デトロイト発という希少性

今なお高級時計と言えばスイス勢、或いはそこへ追随するドイツ勢、そして普及時計という点でも日本勢が圧倒する中、アメリカの、しかもデトロイト発というキャラクターは何をおいても特異という他ないだろう。かつて自動車産業で栄えたこともあり、機械製品のマスプロダクションにおいては一家言ある、という背景も小気味よく響いてくる。先述の通り、デザインの面ではいい意味で裏切っている以上、ブランドの作り方としてはなかなか合理的に思える。

また、こと日本の状況を鑑みると、このSHINOLAは未だ周知されたブランドとは言い難いのではなかろうか。伊勢丹に進出している以上、いずれはブランド名も知れ渡るのかもしれないが、しかし普及帯というにはやや高い時計を買う場合、他人と被る事を危惧する消費者もいるだろう。そういった意味でも、このデトロイト発という希少性はプラスに働く場合もあると推察する。

 

 

3. サイズ展開の幅広さ(ユニセックスモデルの存在)

近年、腕時計のデザインというのは大きめサイズが主流である場合が多い。これは大雑把に言えば、腕時計が単に時間を確認するための道具であることから脱し、ともすればアクセサリーとしての側面が強まってきたためと言えるかもしれない。ごくごく最近でいえばやや小径化してきた感もあるものの、男性向けモデルであれば40mm前後かそれ以上が大体のメーカーの主流と言えるだろう。38mmくらいのモデルすら意外と少なく、筆者のように小ぶりサイズを好む者からすると、冬の時代とさえいえる。ご多分に漏れず、このSHINOLAにも48mm級という極めて巨大(ここは敢えてそう明言したい)なラインナップが存在する。

 

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「つけてみると意外と大きさを感じない」と宣う記事も散見するが、ここが辺境ブログであることを最大限活用し、敢えて「48mmは腕時計としては明らかに巨大である」と明言したい。

 出典:SHINOLA

 

その一方で、SHINOLAには現代としては極めて小ぶりといえる、36mmというサイズが存在する。これはどうやら完璧なメンズモデルというよりはユニセックスモデルという位置づけとのことだが、30mm半ばのサイズ展開は現代においては希少といえよう。先述した通り、独特のデザインとマッチし何とも小気味よい風貌とは言えまいか。

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現代において36mmというサイズはなかなかに得難く、陰険な筆者ですら快哉を叫びたくなるほどである。

 出典:SHINOLA

 

なお、女性向けモデルは20mm後半から取り扱いがあるようだ。

 

 

 

 

注視すべきではなかろうか、と思案する点

1. 価格帯はかなり強気

2. サイズ展開は幅広いが…

3. ケースの厚み

 

 

1. 価格帯はかなり強気

価格帯についてはおよそ1500文字におよぶ冗長にして内容の薄い前置きにて言及したが、SHINOLAが全体的に強気の価格設定である事は、改めて述べねばなるまい。全モデルの風防がどうやらサファイアガラスであるらしいという事を含めても、新興の、それも米国ブランドの設定としてみると些か高額に感じる。

メンズ・レディースいずれも6万円~と書いたものの、ラウンドケース以外のモデルは全体的にもう少し高めになる。全体的にクォーツのモデルが多く、加えて自動巻きについてはメンズ・レディースともに10万円以下のモデルは存在しないようである。無論これらはすべて本国価格であるため、日本で購入する場合はもう少し価格が上昇するであろうことが推察できる。

 

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メンズのラインナップ。現在の最低価格は$550~であるようだ。

出典:SHINOLA

 

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こちらはレディースのラインナップ。基本的にはメンズと同様の傾向だが、一部にダイヤモンドセッティングモデルがあるため、上限は高めである。

出典:SHINOLA

 

 

なお、ムーブメントがインハウスであるのか否か、或いはサプライヤーはどこなのか、メイドインUSAを謳ってはいるが実際はどこまでUSAで生産しているのか、等々の考察についてはここでは触れないこととしたい。ただでさえ冗長にして内容の薄い記事が更に薄味になることは言うに及ばず、また何やらSHINOLAはデザインブランドである、との記述をどこかで拝見したように思うので、妙なところを突っ込むのは野暮だという判断からである。それに、そのあたりについては既にいくつもの刺激的な記事が投稿されているようである。

 やや穿った見方になるが、2011年に旗を揚げ、ホテル経営にまで多角化を進めている側面を併せ考えると、高級ブランドとしての未来を希求しているようにも感じる。そういう意味では価格設定は間違っていないのかもしれない。そもそも高いと感じるのは、筆者が必要以上に陰険だからかもしれないという点については、ここでは触れないでおきたい。

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価格だけでなく、比較対象として名指しでメーカー名を挙げているあたり、公式サイトのレビューもなかなかどうして強気である。

出典:SHINOLA

 

 

2. サイズ展開は幅広いが…

先述した通り、メンズモデルでも36mmという小ぶりなモデルが存在する。それ自体は(筆者としては)非常に喜ばしいことだが、しかしその36mmというのはデザインとしては実質1モデルのみである。また、全体とみると43mm以上の大振りケースがやはり大半を占めている。無論、こればかりは時代の流れなのでSHINOLAに限った欠点というわけではない。あくまでオプションとして36mm級のサイズもある、といった位置づけなのであろう。

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大勢を占めるのはやはり40mm以上の大径モデル(やはり大径である、と敢えて明言しておきたいのが陰険なる筆者である)である。

出典:SHINOLA

 

3. ケースの厚み

率直に言って、この点を気にするのは筆者のような陰険な者以外にいないであろうが、全体的にやや、いやわずかに、時計の厚みが気にならないでもない。都会的な顔つきの時計が多く、またクォーツモデルが主力である(と推察される)以上、もう少し厚みを削っても良かったのではないか…と感じずにはいられないのがこの陰険な筆者である。もっともこれは普段どのくらいの厚さ或いはサイズ感の時計をつけているか、によって当然相当幅の出てくる意見であるからして、陰険な筆者によって指摘されたからといって何ら考慮に値しない場合もあるだろう。

 

 

 

 

 

以上が2500文字以上に及ぶ冗長にして個人的な意見の垂れ流しである。後半の内容は重箱の隅をつつくような陰険にして的外れな指摘をしてしまったきらいがあるため、デザインの点でもうひとつプラスの点を述べてから筆を置きたい。

 

 

SHINOLA FLAGSHIP WOODWARDから出て左手に曲がると、とある飲食店が居を構えており、その店舗の時計がどうやらSHINOLAの物であった。これがなかなかに洒脱で、この陰険な筆者ですら知らずのうちに足を止めてしまうほどであった。

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角型時計はバランスが難しいように思うが、これは見事に街並みに調和しつつ、かつ粋なデザインではなかろうか。

 

また、レディースの1モデルであるTHE MULDOWNEYというラインが店舗で展示されていたが、なかなか目を引いた。

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角型のデザインはどうにも難しいイメージが付きまとうが、このモデルに関してはなかなかに均整の取れた、それでいて何やらコケティッシュな感覚すら覚えると言っては過言であろうか。


とにもかくにも、このSHINOLAの真骨頂とはやはりデザインにあるのではないかと感じずにはいられない。特に角型のケースにおいては、いや角型に限るのは陰険な筆者だけかもしれないが、極めて小気味よいデザインを生み出している事に好感を覚える。某スイスの丸形の機械式時計しか造らないというブランドに対抗し、角型の時計のみで勝負する…というのは無謀かもしれないが、しかし今後のバリエーション展開には期待が持てると言っても過言ではないのではなかろうか。