日本でもそうであるように、米国にもやはり数多くの百貨店が存在し、日々しのぎを削っている。そして景気の動向や消費傾向の変化に伴い、業界全体としてやや苦境に立たされている状況も共通している。
例えば高級百貨店として高名な米バーニーズニューヨークが破綻したというニュースは、人によっては記憶に新しいかもしれない。
そんな共通点もある中、米国における百貨店事情を漠然と眺めると、日本と少し異なる様相を呈している側面もある。
そのひとつとして、『オフプライスストア』が公然と存在している事がある。
そのオフプライスストアの形態にも、
1. 百貨店が直々に運営しているタイプ
2. 百貨店とは別の会社が運営しているタイプ
の2つに大別されるようである。
1のタイプで有名なのはTJXカンパニーが手掛けるマーシャルズやTJマックスであり、2のタイプとして有名なものにはノードストロームが経営するノードストロームラックがある。この辺りについては、既に以前の記事で垂れ流した通りである。
この手のストアは季節に関係なく、年がら年中セール価格で販売している。そして、そのセール価格販売から生み出される売上というのも決して無視できないレベルだそうである。
ノードストロームで言えば、売上全体の約20%はノードストロームラックによるものらしく、決して無視できない割合である。実際、仕事終わりや週末に訪れると結構な混み具合で繁盛しているように見える。老舗百貨店のノードストロームでこの状況なのだから、他の百貨店においても同様の事情だったとしてもおかしくない。
となると、
どの百貨店が、
それぞれどういった店舗を、
どの程度の規模で展開しているのか、
ということが気になって仕方がないのが偏屈な筆者というものである。
よって、本体となる百貨店を黒字、
そのアウトレット店舗(オフプライス店舗)を赤字
で表記して垂れ流していく事にする。
※なおあくまで『垂れ流す』であって、断じて『まとめる』などという大層なものでは無い。この程度の情報は今の時代、ググればすぐに出てくるような代物なことは筆者とて重々承知である。
Macy's (メイシーズ)
創業:1851年、ニューヨーク
店舗数:636 (2019年)
備考:親会社としてMacy's, Inc.が存在する。全体的に手ごろな価格帯のブランドを扱っている、一般庶民向けの百貨店。イメージとしてはスーパーマーケットの延長線上、と言った方が正しいかもしれない。Thanksgiving DayにNYで行われるパレードは非常に有名。
Macy's Backstage (メイシーズ バックステージ)
店舗数:120 (2019年)
備考:Macy'sのオフプライスストア。そもそもMacy'sが高級デパートと言う感じではないので、今回紹介する中ではもっとも安価なものが揃う。値引き額も大きいイメージ。所謂高級ブランド品はあまりない。どのオフプライス店舗よりも展示が大雑把。ワゴンに放りこんでそのまま、といったような様相も珍しくないため、本当に在庫処分と言う感じに見える。
Bloomingdale's (ブルーミングデールズ)
創業:1860年、ニューヨーク
店舗数:38 (2019年)
備考:親会社はMacy's, Inc.で、Macy'sと同じである。Macy'sよりはやや高級な、所謂百貨店らしい百貨店といったところ。立ち位置は恐らくNordstromと似たようなライン。
Bloomingdale's Outlet (ブルーミングデールズ アウトレット)
店舗数:19 (2019年)
備考:残念ながらミシガンにはないため、筆者は未来訪。
Nordstrom (ノードストローム)
創業:1901年、シアトル
店舗数:119 (2019年)
備考:元々はシアトルで創業した靴屋が起源。米国有数の規模の百貨店で、立ち位置はサックスフィフスアヴェニューよりやや下の高級百貨店、といったイメージ。米国の百貨店なのだが、何故か日本語のWikipediaの記述が充実しているのが興味深い。
Nordstrom Rack (ノードストローム ラック)
店舗数:251 (2019年)
備考:百貨店が直接運営するオフプライスストアとしては、最多の出店かつ最も著名と思われる。オフプライスストアは通常ワンフロアなので、出店しやすいという事もあるのかもしれない。もともと靴屋として創業しただけあってか、マグナーニとかフェラガモ、ルブタン等も格安で見られる以前も垂れ流した。
ECサイトにも力を入れている模様で、Nordsrom Rackはウェブサイトも充実している。更にそれとは別にHauteLookというECサイトも持っているが、UIもかなり似ているので、たまにどっちがどっちかわからなくなる。
Saks Fifth Avenue (サックスフィフスアベニュー)
創業:1867年、ニューヨーク
店舗数:46 (2015年)
備考:老舗高級百貨店として有名。立ち位置としてはNordstromよりもう少し上で、Neiman Marcusと競合関係にある模様。筆者の感覚としては、フロアの雰囲気やラインナップも含めて日本の伊勢丹に近いイメージ。
Saks Off 5th (サックスオフフィフス)
店舗数:110 (2015年)
備考:お買い得なブランドももちろん多く置かれているが、いわゆるハイブランドの製品が結構ある。さすがに値引き率はやや辛いものの、プラダの鞄なんかも普通にアウトレット価格で売られている。サングラスの品揃えも多い印象で、定番のレイバンはもちろん、クロエやバルマンといったあまり見かけないものも。また、冬場はカシミヤ製品が結構放出されており、珍しいところではピアチェンツァのマフラーなども見かけた。Nordstrom Rackと同じく、ECサイトにも力を入れている印象。
Neiman Marcus (ニーマンマーカス)
創業:1907年、テキサス
店舗数:43 (2019年)
備考:こちらも高級百貨店として有名で、サックスフィフスアベニューとはライバル関係にあるようだ。Neiman Marcus Group Inc.を親会社としている。サックスがやや重厚感のあるフロアスタイルだとしたら、ニーマンはそれをややお洒落に振った感じ、というのが筆者の安直なイメージ。
Neiman Marcus Last Call (ニーマンマーカス ラストコール)
店舗数:30
備考:ハイエンド性を保つためか、最近になってオフプライス形態の店舗を閉店している模様。競合のSaks同様、ECサイトは充実している。
Barneys New York (バーニーズ ニューヨーク)
創業:1923年、ニューヨーク
店舗数:経営破綻につき閉鎖
備考:こちらも米国を代表する高級百貨店で、サックスやニーマンが主な競合。1996年に一度経営破綻し、2019年にふたたびチャプター11の適用を申請。
経営破綻後も紆余曲折あったが、最終的にはかつての競合相手であるサックスフィフスアヴェニュー内に、ショップインショップとして生まれ変わることになったようである。2019年12月現在、バーニーズニューヨークのURLは自動的にBARNEYS at SAKSというページに転送されるようになっている。
なお日本のバーニーズ・ニューヨークとの間に、直接的な資本関係はない。
Barneys New York Warehouse (バーニーズ ニューヨーク ウェアハウス)
店舗数:経営破綻につき閉鎖
備考:こちらも2019年12月現在、Barneys WarehouseのページはSaks Off 5thへ転送されるようになっている。
Lord & Taylor (ロード&テイラー)
創業:1826年、ニューヨーク
店舗数:38 (2019年)
備考:米国最古ともいわれる老舗の百貨店。こちらも苦境に立たされており、2019年1月にはNYの旗艦店を閉店し、同年8月にはサンフランシスコの新興企業Le Tote(ル・トート)へ売却されることとなった。このル・トートはアパレルや雑貨のレンタルを手掛ける企業で、アパレル版ネットフリックスとも呼ばれているようである。
ちなみにあのウォルマートでオリジナルブランドが販売されていたりもするが、アウトレット店舗らしい店舗は見当たらなかった。
Bergdorf Goodman (バーグドーフ グッドマン)
創業:1899年、ニューヨーク
店舗数:2 (2019年)
備考:NYに2店舗だけ存在しており、Neiman Marcus Group Inc.の傘下。超高級百貨店として知られ、もはや伊勢丹に似ている似てないとかそういったレベルですらない。フロアは一般的な百貨店より大分狭く、限られた一定の空間の中に高級品が凝縮されているイメージ。客層も見るからに富裕層と思しき諸兄姉ばかり。その店舗数と性質上によるものか、アウトレット店舗は見つけられなかった。
というところで、筆者が立地的にアクセス/認知できた範囲でいっても、これだけの種類・展開数が存在していた。
くどいようだが、これらのアウトレット店舗では年中セール価格で商品が捌かれている。店舗あたりの敷地面積もさすがアメリカサイズであるし、たいがいネットショップも完備している。そして言うまでもないが、これ以外にも米国にはまだまだ百貨店が有り、それに紐づくアウトレット店舗も同じようにあるだろう。
この状況は、例えるなら伊勢丹や阪急が
伊勢丹格安販売
阪急舞台裏
とかいった類の店舗を都内に建設し、公然と割引商品を捌いているようなものだろうか。
無論、日本でもファミリーセールが行われたりすることはあるが、それは概して『ひっそり』かつ『限定的に』行われるのが普通であって、捌かれる物量を考えれば比較にすらならない。
商売のスタイルが国や地域によって異なる事は想像に難くはないが、ともあれ同じ百貨店ですらここまで違うのは、なかなか興味深いものである。